モーショングラフィックスに特化した「We」がつくる、世界中どこでも伝わる新しい映像表現。
デザインを「つくる技術」を持ったサンドウと「動かす技術」を持った福田が立ち上げた、モーショングラフィックスカンパニーの「We」。
2021年9月の発足から様々な映像表現を生み出してきた2人に、これからのモーショングラフィックスの可能性や、「We」という会社の特徴についてお話を聞いてきました!
モーショングラフィックスという新しい映像表現
――Weはモーショングラフィックスに特化した制作会社ですが、そもそもモーショングラフィックスとはどんな映像表現なのでしょうか?
――モーショングラフィックスのメリットも教えてください。
まずは撮影しなくても、十分伝わる動画をつくれることです。その結果、人件費も抑えられて、納期のスピードも早くなります。
もちろん撮影した実写の動画と組み合わせることもありますけど、撮影しなくても文字や画像の素材だけでつくることはできます。あと商品を拡大させたり回転させたり、現実の撮影ではできない映像表現ができるのも魅力ですね。
実写の世界は限界がありますけど、モーションだとイラストでもなんでも自由に動かせるから、表現の幅を無限大に広げられるんですよね。
また、情報を的確に伝えたいときにもモーショングラフィックスは有効だと思います。文字やグラフをうまく見せることで、意図的なメッセージを視覚から伝えることができますね。
――CMって、伝えたいことがよく分からなかったり、受け手によって捉え方が変わったりすることもありますが、文字やグラフで伝えるなら、コミュニケーションの間違いが起こることは少なそうですね。
もちろん実写にもいいところがあって、僕も好きだけど、モーショングラフィックスはデザインの力でダイレクトに言える良さがありますね。回りくどいストーリーにする必要がないし、コミュニケーションが早いかな。
とにかく分かりやすいよね。
それと、そういう伝わりやすい映像表現の良さは、日本国内だけでなくグローバルにも展開できることなんですよ。ストーリーのあるCMは、アイデンティティーやイデオロギーの違いで海外の人には分かりづらいかもしれないけど、モーショングラフィックスは国籍や人種を飛び越えて、どんな人にもダイレクトに届くものをつくれる。だからグローバルなビジネスの展開に利用できるのもメリットの一つですよね。
――確かに、文字はその国の言語に変換すればいいだけですからね。最近は、モーショングラフィックスの広告を見ることも増えた気がします。
コロナ禍で実写の撮影ができない時に、需要が高まりましたね。
それと今って、どんどんインターネットの情報量が多くなって、一つの広告が見られる時間が減っているんですよね。スマホでもスクロールが速いし、街中のポスターも本当に一瞬しか見られないじゃないですか。
そうそう。
そうなると、広告に目を向けさせることが大切になりますよね。それが止まっている絵だと気にならないんだけど、モーションで動いていたら、「次はどうなるんだろう」と思って見てくれたりする。そういう世の中の流れもあって、モーショングラフィックスの需要は増えてますね。
うん。Weでは「catch motion」と言うスローガンを掲げてるんですけど、人の心をキャッチするアニメーションの技術が、今後ますます必要になってくるということですね。
何をプロデュースしてきたのか
――Weの仕事の具体例を教えてください!
広告が多いんですけど、ほかにも分かりやすい仕事を言うと、去年『Finding Satoshi
』 という海外のクルーがつくった1時間半のドキュメンタリー映画の中のCGアニメーション、デザイン、モーショングラフィックスを担当しました。
――映画の中でも使われるのですね!『Finding Satoshi』はどんな映画なのでしょうか?
『パープレックスシティ』という、2000年代初頭にネット上で世界的に流行ったゲームがあったんです。問題を解いていくと景品がもらえるという謎解きゲームなんですが、その最後の謎が「サトシ」という日本人の顔で、「私を見つけなさい」と書いてあったという。
――なんだか怖いですね…。
(笑)。その「サトシ」を見つけるために世界中の人が探しまわったんだけど、全然見つからなかった。でも2020年末に実に14年越しに「サトシ」が見つかったんですよ。その経緯をまとめたドキュメンタリー映画の中で、2000年代初頭にみんなが「サトシ」を探す様子をアニメーションとモーショングラフィックスで表現しました。
――面白い仕事ですね。
めちゃめちゃ面白くて。世界のチームとタッグを組んでやる初めての仕事だったし、国際コンペでも賞を取ったんで、嬉しかったですね。NHKオンデマンドでショート版(『謎の日本人サトシ~世界が熱狂した人探しゲーム~』)が見られます。
――その仕事はどのようにオファーが来たのでしょうか?
会社のホームページに載せていたアドレスに直接連絡が来たんですよ。Laurent Barthelemyというアメリカの監督が、モーショングラフィックスのチームを探していたときに、Weのホームページを見つけたみたいです。
その監督はアニメーションの会社を持っていて、自分たちでもモーショングラフィックスはできるんですけど、日本人のモーショングラフィックスが繊細で素敵だからと日本の会社を調べたらしいんですよね。それでいくつかの会社にオファーをして、一番いい演出コンテとデザインを出したWeと「一緒にやりたい」となったらしいです。年末納品なのに、依頼が来たのが10月くらいでめちゃくちゃ大変でしたけどね(笑)。
コンビ結成秘話
――会社が立ち上がった背景についても教えてください!
もともと自分はTUGBOAT2でアートディレクションを学んで独立し、「SANDO.」という主にグラフィックで広告をつくる会社をやっています。でも時代が変わって、どんどん紙が減っていることを感じたんですよ。会社が渋谷にあったんですけど、渋谷駅もポスターがどんどんサイネージに変わっていて、紙の仕事の将来性に危機感を感じてたんです。
――それはいつ頃の話ですか?
2019、20年ぐらいです。それならグラフィックをサイネージで使えないかと考え、グラフィックを動かす勉強をしようと、モーショングラフィックスの学校に通いました。学校に通ったことで「これは今から勉強して何とかなるもんじゃない」と考え直して…。だれかデザインを動かせる人はいないかと探していた時に、どうやら福田も同じようなことを考えているとハッチの人に教えてもらいました。
僕は僕で、ハッチの前の会社でモーショングラフィックスをやっていたから、いつか自分の得意分野で独立したいと考えていたんです。培ったスキルを活かして何かをやりたいと思っていたけど、なかなかきっかけをつかめないでいて。
福田のことは昔から知ってたんですけど、ディレクターのイメージが強くてモーショングラフィックスができるイメージはなかったんです。それで作品を見させてもらったら「うわっ!いいじゃん」と思って。福田は動かせるけど、デザインの部分が足りない。僕はデザインができても動かすことができない。だったら、お互いに得意な部分で足りないとこを埋め合えば、良いものができるんじゃないかって。
――2人の個性がコンビとして見事にはまった感じですね。
それで、コロナが出始めの頃に、まずは子供向けの動画をモーショングラフィックスでつくってみようと誘ったんです。子供向けにコロナの対策方法を伝えるものって当時はなかったから、自分たちができることをやってみようよと。
完全に自主企画で、サンドウさんからは「お金も何も発生しないから、やりたくなかったら大丈夫だよ」といわれたけど、「いやいや、一緒にやりましょう」と。そのシリーズ動画が1個か2個できたタイミングで「俺らこれで会社をつくれるんじゃないか」という話になったんですよね。すぐにハッチの代表の本間さんに相談して、その3カ月後には、会社がものすごいスピードで誕生してました。
――動き出してからが早いですね。Weという名前にしたのはなぜでしょうか?
立ち上げの経緯からもわかる通り、僕たちの特徴や強みって、福田がいて僕がいるってことかなと。自分の会社は「SANDO.」という一人称にしたけど、一人称ではなくWe(私たち)だよなって。それと、僕たち2人だけでなくこれから増えていく社員や、クライアントさんや、外注するクリエイターさんも、”すべては仲間”という感じで広がっていけたらいいなというのが、Weという名前に込めた思いです。
今と同じような説明を受けてすぐに「めっちゃいいやん」って思いましたね。結構早い段階で名前は決まったよね。
仕事の進め方と価値観
――今(2022年5月時点)のWeのチーム構成についても教えてください。
合計8名いて、1人はプロデューサー兼マネージャーで、あとの7名はクリエイティブですね。7名の内訳はディレクターの福田とアートディレクターの自分、モーションデザイナーが3名とグラフィックデザイナーが1名、アシスタントデザイナーが1名です。
――仕事はどのように進めていきますか?
まずは僕と福田が2人でブレストをして企画を考えます。そこから演出は福田、デザインは僕という風に分かれて手を動かしていきます。映像を動かす目線を持った福田と、グラフィックをつくる目線を持った自分の2人で考えるから、企画や表現の幅が広がりやすいんです。
やっぱり二軸あるというのが僕らのバリューだと思いますね。クライアントからオーダーをいただいた時も、基本的には企画から一緒に考えさせていただくことを提案します。
――仕事を進めるうえで大事にしている考え方はありますか?
スティーブ・ジョブズが言っていた「One more thing」という考えは、会社の哲学として大事にしています。クライアントの想定を少しでも超えるというか、平均点まで行くのは当たり前で、プラスアルファをどれだけ加えられるかが大事。それは色々な軸があって、スピードかもしれないし、デザインかもしれないし、金額かもしれないけど、Weらしい「One more thing」を常に考えていこうと思いますね。
「One more thing」は、僕ら2人に共通する仕事のスタンスだし、若い社員にも浸透していると思います。Weって20代の人たちしかとっていないんですよ。それで手前みそだけど、彼らのクリエイティブに対してのスタンスはとてもいいと思う。若いのに超真面目だし、ある種の頑固さもあるし、積極的な人が多いので。
グイグイ来てくれると嬉しいよね。
受け身の人は少ないね。
――良いチームができていますね。最後に今後、どんなことをしていきたいか教えてください!
自分たちのクオリティをあげていくと同時に、モーショングラフィックスの可能性をもっと広げたいと思いますね。そのために、モーショングラフィックスの良さを分かりやすく優しい言葉で伝えていくことが大事だと思います。
うん。モーショングラフィックスの魅力や定義を発信していくのは大切だと思いますね。
――市場を教育していくということでしょうか。モーショングラフィックスの魅力を伝えるものをモーショングラフィックスでつくっても面白そうです。
それはある種の僕らの使命だと思いますね。あとはやっぱり若い社員の教育に関してはすごく考えています。会社の哲学を彼ら、彼女らが継承して、次の世代でも魅力ある映像表現を生み出せる会社をつくっていけたらいいと思いますね。
――2人の強みを活かして生まれた「We」が今後どんな映像制作集団になっていくか楽しみです!今日は色々なお話を聞かせていただきありがとうございました!
簡単に言いますと文字や画像やロゴなどのデザインを動かし、インパクトを最大化する新しい映像表現です。