「多“才”なSPEC」のクリエイター達① 迷彩トモヤさん
ハッチの最古参の部署でもあるマネジメントオフィス「SPEC」。その特徴のひとつが、マネジメントにあたるクリエイターの職能的多様性です。カメラマン、CMディレクター、メイクアップアーティスト、フラワースタイリスト等々数多くの才人が在籍し、ごく広範囲に渡るクリエイティブ制作がSPECへのワンストップによってカバーできます。
各自持ち場となる領域からイマジネーションをカタチあるものへと昇華してみせるクリエイター達。ある時には驚きを、ある時には涙を呼ぶその作品は、一体どんな個性から生まれ出るのか。当シリーズでは気になるその人柄や仕事観を、10の質問を通じて探っていきます。
コレオグラファー・迷彩トモヤさん
ひとりの踊り手として、パフォーマンスチーム「迷彩」の一員として、ダンスと身体表現の可能性を20年以上に渡り追求してきた迷彩トモヤさん。
「迷彩」ではテクノ等、四つ打ち系の楽曲とダンスを見事結びつけシーンに確固たるプレゼンスを築き、また一方では「サボテン・ナイト・フィーバー」(NHK Eテレ『みいつけた!』エンディングテーマ曲)の振付けで子ども達のハートをがっちり掴んでもみせた彼。人を魅了する動きが生まれるそのゆえんは、以下の通りです。
質問①:さまざま動きの連続からなるダンスですが、そういった個々の動き、いわゆる“フリ”のインスピレーションはどんなときに降りてくるものですか。
質問②:インスピレーションにも関わる部分ですが、「音に合わせて踊る」という、このある意味不思議な営みに関連して思うところ、考えるところはありますか。
自分のことを振り返って感じることとして、もともと音楽だったものが、自分を通してまた新たな別のものとして出てくるような感覚があります。フィルターを通す前後でソレが変わるかのような。
あと、SNSに入ってくるダンス系動画を見ていると、熟練者による作り込まれたダンスもいいけれど、お年寄りや子どもなどの素人が踊っているものによりグッときたりもします。その人が「動き」を感じているのがよりリアルに伝わってきて。技術の上手い・ヘタではないところにある感動っていうんですかね。
質問③ :踊りを始めたのはいつ頃のことですか。
中学生の時、友達の兄が録画していたテレビ番組を観る機会があって。『ダンス甲子園』とか『club DADA』に出てくるダンサーの動きが格好良くて、それを真似し始めたのが最初です。当初はインターネットの普及もまだまだだったし、ダンススクールの存在自体知りませんでした。
高校生になってからダンスレッスンに通っているという人と知り合って、そこに一緒に連れて行ってもらったりして。あとはストリートで練習に励んだりしてました。
質問④:この道のプロとして、実際にやっていけそうだと思えた特定の瞬間などはありますか。エピソード等あれば教えてください。
そういった確信めいたようなことは別になかったですね。目の前の仕事に集中し続けてきて、結果今があるというだけで。
自分が関わった作品がミュージックビデオやコマーシャル等で流れることで、それを観てくれた人がいて、そこからありがたくもまた新しいオファーの話が浮上して、という展開の連鎖ですよね。何かドラスティックな展開が、というのではなく、あくまで地道なステップの延長線上です。
質問⑤:ご自身について、どんな性格だと思いますか? またそれが制作活動や日々の営みにどんな風に現れていると思いますか。
時間には余裕を持つ。待ち合わせ時間ギリギリ、みたいなのが好きじゃないです。制作においてもやっぱり同じで、自分がボールを持ったらパスはなるべく早く・プロジェクトの流れは滞らせず。それに、言った手前はちゃんとやる「有言実行」の人でいたいな、と。大人としてごく当たり前とされることは全うしたくて、根の部分が真面目、ということなんですかね。ある意味、ちょっとした体育会系と言えなくもなさそうです。仕事仲間もストイックに取り組む人が多かったからその影響もあると思います。
他のダンサーと相対するような機会によく思うことなんですが「写真から想像していた以上に真面目だった」ということが割に多くて。そういう人が生き残っている、ということなのかもしれないですね。
質問⑥:サクサクはかどる時もあれば、何故だか今ひとつという時も。ものづくりには得てして付きもののこの「調子の波」を、どのように捉え・対処していますか。
手始めの段階では解像度として必ずしもクリアでない中、これを鮮明にしていこうと努めながら制作するケースもありますが、仮に行き詰まってもパッと違う方向へ切り替えられる勇気は大切だと思います。いちど積み上げたものを、イマイチだと思えば潔く捨て去り、ゼロからやり直してみせようというマインド。言うだけなら簡単だけど、労力はそれなりにかかりますからね。
そういう状況に陥らないように、常日頃から踊りのインスピレーションの素になるような、あらゆるインプットに努めてもいます。転ばぬ先の杖みたいなものです。
質問⑦:他のプロフェッショナル達と一緒になって、各自その持ち場からひとつの案件に向き合うような仕事も多いと思います。このような案件に臨むにあたって心掛けていることなど、ありますか。
相手の意向や状況の変化に応じ、つど良案を差し出せる瞬発力が必要だと思っています。求められたその場で、スッと。そのための引き出しを日々充実させておくことも肝心です。
さまざまな専門性を持つ人と一緒になる「制作現場」に携わること自体、好きなんです。完成物を見て感じる喜びというのはもちろんあるんですけど、もしかしたらそれ以上に、そこまでに至るプロセスに関わるとか、現場の空気に触れること自体を楽しんでいるからかもしれません。
コレオグラファーという立場上必ずしも必要のない事前ロケハンに、あえて同行させてもらったりとかもあります。
質問⑧:身体表現が活躍するフィールドが、今後変化・発展を見せる予感などはありますか。
具体的にどうこう、というのは全く想像のつかないところですけどね。ただ、街で見かけるスクールの数やMVに登場するダンスシーンの数、みたいなところから分かるダンスの浸透ぶりとは関係なく、踊りそのものやシーンの本質は今も昔も特に変化はしていないように感じています。
SNSが普及したメディア環境であるとか、CGのようなテクノロジーの進歩であるとか、そういうものが日進月歩でちょっとずつ変化しては日常を書き換えていっているのが現代です。ダンスの裾野の広がり方もあくまでシーンをつくるひとりひとりを取り巻く日常のレベルから変わっていくんじゃないかな、とは思います。少しずつ、目に見えないスピードで。
質問⑨:仕事道具として普段から大事にしているものをひとつ、見せて頂けますか。
なんてことないですけど、ノートです。特に振付けを固めた後のフォーメーションなんかを常に描き込んだり、メモしたりしてます。将棋のコマがどう動く、みたいな真上からの俯瞰のアングルで。
表紙に貼りつけたステッカーもその時々で入手したすごく大事なものばかりなので、一冊の中身をぜんぶ使い切っても捨てられないんですよ。PCやスマホにも同じようにバシバシ貼っています。ステッカーでやるカスタマイズが、結構好き。
質問⑩:マネージメントを担当するSPECとの連携において、有意義に思って頂けていることなどありますか。
SPEC加入以前の振り付け案件はというと、そのほとんどがMVでしたから、今の多様な業界に関われるようになったのは大きな変化です。最近でも、同じSPECに所属する他分野のクリエイターさん3名との共演のようなかたちでご一緒する機会がありました。
既に話した通り、制作現場に入って異分野の方と関わり合い、また互いに貢献し合い、という時間が僕にはとても楽しいものだし、在籍する人の肩書きが幅広ければそれだけ案件のバラエティも増えていくはずですし、そういったあたりが楽しみです。可能性を感じます。
身体を動かしていないとき。なんて言ったら意外に思うかもしれませんが。移動中によくテクノのDJ MIXとかを聴いているんですけど、そういう時って常に踊っている自分が脳内にいて、その時々の音色やフレーズから受け取るイメージを手がかりに、特定の所作が湧いてくるようなところがあります。お題を与えられてそこでゼロからつくることももちろんありますが、そうやって日常的に掴んだものを大事に自分の中で温めたり、表に出したりしています。
テクノやその周辺のジャンルって、そもそもが抽象的でそこに明快な意味やコンセプトを汲み取れるようなものではないと思うんですよね。「この一曲ヤバい!」みたいな感覚もその曲の前後の流れに依存していたり、極端な話、クラブで過ごす一晩を通じてはじめて感じ取れる類の感覚もあったりして。そういった体験に基づくひらめきである点も、影響していそうです。